米麹

米麹があれば、味噌、塩麹、甘酒、酒が作れる

日本の伝統食品である味噌、酒、みりんなどの原料ともなっています。

最近では大手のスーパーマーケットやデパートに行けば、乾燥の米麹がたやすく手に入るようになりました。
そのおかげで、米麹を手作りしなくても、味噌や塩麹を家で簡単に作ることができます。米麹を手作りしない分、手間が省けます。

しかし、本当にいいものを作りたければ、乾燥よりも、生の米麹を使うのがよいでしょう。

生の米麹がおすすめな理由は《酵素力価》の強さ!

どうして生の米麹が乾燥よりも良いのかというと、生の米麹は新鮮な分、乾燥米麹よりも酵素力価が高いということが言えます。
米麹には麹菌はたくさんの酵素が含まれていますが、この酵素力は時間とともに衰えてしまいます。

生の米麹の消費期限は、わずか7日程度。 生の米麹を扱っている店も実際、多くありません。
米麹の酵素力が活発なうちに仕込みができることを考えれば、手作り米麹には多くのメリットがありますね。
 

米麹は自然とのコラボレーションで生まれた

江戸時代の書物「本朝食鑑」の「麹」の項にはこのようにあります。

和名は加無太知(かむたち)。今は古宇志(こうじ)という。 (略)製法は、好い粳米の春白(つきしらげ)したものを一昼夜水に浸して、取り出し、水気が乾いたら甑(せいろ)で蒸して飯とし、これをむしろにひろげて一日露にあてる。木盤に盛って土窖(あなぐら)の中に置いてむらさせると、大抵三日間で白衣(しろかび)を生じるが、この時取り出して用いるものを俗に白麹という。

麹菌は元来、藁などに付着していたり、大気中に漂ったりと、自然界に存在している菌です。
本朝食鑑には、蒸米を作り、穴蔵の中に3日間置いておくと白かびができ、これを白麹という、と書かれています。
どこにでも存在していたニホンコウジカビが、知らぬ間に蒸した米にカビをつけたのが米麹の始まりだった、と言えるかもしれません。「土窖(あなぐら)の中に置いてむらさせる」という記述からも、乾燥した状態ではなく湿度の多い状態にしておくとカビができたということが想像できます。

現代の日本で売られている種菌を使えば、江戸時代のようなその辺に漂っている麹菌をキャッチして発酵させる”アナグラ法”に頼ることなく、麹作りで失敗する率はかなり低くなること間違いありません。
よく考えて見ると、私は市販の種菌を使って米麹を作ってみて、失敗したことが一度もありません。(もちろん保温などちゃんとした上でのことですが。)
それぐらい麹菌というのは優秀で、麹作りは簡単なのです。

自分で作れば、米麹をカスタマイズできる

麹菌というのは、かつては「もやし屋」と呼ばれた種麹屋で培養された菌のことで、だいたい、パウダー状のものが売られています。
これらのものが、米麹、麦麹や醤油麹を専門に作る製麴業者に販売されているだけでなく、大変ありがたいことに一般のエンドユーザーでも買うことができるようにと小売されています。

種麹メーカーのひとつである菱六さんにに伺ったところ、米麹用の「小袋粉状」に使われている麹菌はアミノ酸を作り出す力が強いため、味噌作りに使えばより美味しい味噌ができるということでした。

同メーカーの「改良長白菌小袋粉状」はデンプンを分解する酵素が多く入っているそうで、この麹菌を用いれば、甘酒がより一層甘味が増すということです。

つまり最終的に、米麹で甘酒を作りたいのか、味噌を作りたいのか、あるいは酒を仕込みたいのかによって、選ぶ麹菌を変えることができます。

つまり米麹を自分の好みにカスタマイズできるのです。
酒造りには、酒造りに適した麹菌があるらしいのですが、市販では出回っていないでしょう。
そのため甘酒用の麹菌を使うのがいいのではないかと思います。

スーパーに並ぶ乾燥米麹も便利ですが、美味しい味噌や甘味の強い甘酒を仕込みたいならば、ぜひ麹菌を選ぶところから始めて、米麹を手作りしてみてください。




出来上がり:約1kgの米麹

  • うるち米 900g
  • 米用の麹菌(Aspergillus oryzae)1g

必要な道具:

  • 大きな鍋
  • 蒸し器(できればステンレス製)
  • 蒸し布
  • しゃもじ
  • 電気毛布、もしくは温度調節ができるヨーグルトメーカー
  • ダンボールなどの保温箱
  • 温度計
  • 3〜5L程度の容量が入るタッパーなどの平たい容器
  • タッパーが入る大きさのビニール袋

準備


duration:
about 5-10 min.


仕込みをする前日の夜に、米を浸水させておく。

米のぬか成分が取れるまで洗い、濁った水が米からでなくなったら、米の2、3倍の水に一晩つけておく。 夏場は6時間以上、冬場は、15時間以上を目安にする。 次の日、麹菌の種付けが終わってから、約48時間後に麹が完成するまでの間、8時間から12時間ごとに米麹の手入れをしなくてはならない。それを見越して、次の3日間の米麹作りのスケジュールをたてる。

米を蒸す


duration:
about 30-60 min.

仕込み当日、前日の夜に浸水させておいた米をざるにあげ、1~2時間かけ、水を切る。

大きめの鍋に、蒸し器の底が濡れない程度の量の水を入れる。 蒸し器の底が濡れてしまうほどの水を入れると、米がベタッと蒸しあがってしまい、逆に水が少な過ぎると鍋が空焚きされてしまうので、水の量には注意する。

圧力鍋だと短時間で米が蒸しあがるので、蒸し器に接触した部分の米が水っぽくならず、米麹に適した具合で蒸しあげることができるのでおすすめ。

薄手の蒸し布を水に濡らし、固く絞って蒸し器にかける。その上から、十分に水切りをした米を入れる。

蒸し布は分厚目のものよりも、表面に毛羽立ちのない、つるりとした手ぬぐいタイプのものがよい。

米を蒸し布で覆い、圧力鍋の場合は、圧がかかってから20分、火にかける。20分後に、火を止め、圧が抜けるまで鍋を冷ます。 圧力鍋以外の鍋の場合は、40分程度蒸す。この時、米が水気を吸ってべたべたにならないように気をつける。

蒸しあがった米は透明感がある。 もし、水気を多く含んで膨れ上がっていて、白っぽく、普段食べているごはんのような柔らかさだと米麹用の蒸し米には向かない。 指先で挟みつまむと潰れるぐらい柔らかいけれど、食べるには固すぎる、手で触ってもあまりくっつかず、ぱらぱらと手から簡単に剥がし落とせるぐらいがよい。

米1kgに対し、3~5L容量の平べったいタッパーだとちょうどよい。 口の小さい、底の深いタッパーだと、米に酸素がいかず、麹菌の胞子の発芽に適した環境にならない可能性があるので、なるべく平たいものを選ぶ。 タッパーと蒸し米を混ぜるしゃもじなどは、それぞれ消毒しておく。

蒸しあがった米を蒸し布ごと鍋から取り出し、タッパーにひろげる。 蒸し布にこびりついた米を剥がすように、しゃもじで全体を冷ますように、上下に切り返す。 水気を多く吸った米粒の塊などがあれば、それを分解して、水っぽい米の塊がなくなるようにする。米一粒一粒がばらばらになるように蒸し米を切るように混ぜる。ここで、捏ねて、餅のようにしてしまうと麹菌が繁殖せず、米麹にならないので注意する。

麹菌をつける


蒸し米の温度が35度程度まで下がったら、麹菌をつけていく。 温度を早く冷ますには、冷えた部屋に一時おいておくなどする。

1kgの米に対して、1g程度の麹菌を使用する。 麹菌の入った小袋から上手く撒くことができない場合は、茶漉しや紙を折ったものにパウダー状の麹菌を乗せて、蒸し米の表面にまんべんなく、麹菌を撒く。 清潔な手で、麹菌が蒸し米の表面全体に付着するように、両手を使い、蒸し米を揉み込むようにすりつけていく。 麹菌が付着しなかった箇所には、麹菌が繁殖せず米麹にならないので、この作業は丁寧に行う。

作業が終わったら、蒸し布で蒸し米を包む。 最初に消毒しておいたしゃもじは、かき混ぜる時に使うので、タッパーに一緒にいれておくと便利。 タッパーの蓋は湿気が逃げないように軽くかぶせておく。 麹菌繁殖のために、空気が必要なので、蓋は完全に閉めてしまわない。 タッパーを大きめのビニール袋に入れる。 蒸し米を包んだ蒸し布と蒸し米そのものが水分を含んでおり、タッパー内の湿度はおのずと高くなる。高い湿度の環境で麹菌は繁殖しやすい。電気毛布で保温した時に、湿気が逃げないようにビニール袋を利用する。

ビニール袋の口は開けた状態で、箱の外側に出しておく。 9段階の温度調節ができる電気毛布を箱に入れて、その上にタッパーを置く。 米麹の内部温度(品温)が麹菌の種付けの時点で下がり過ぎていると、製麴に適さないため、最初の1、2時間は、米麹の品温を計るために温度計をタッパーの隙間から蒸し米に刺しておき、温度をチェックする。 (例えば、品温が28度だった場合、品温が33度になるまで電気毛布の温度を高めにセットする。品温が33度に達した後は、33か34度をキープできる温度に設定する。)

今回はダンボール箱を保温箱として使用した。 箱を利用せずに、厚手の毛布の上に電気毛布を置き、その上にタッパーをおいて、包んでもよい。 ビニール袋の口は外に出しておく。 湿度の高い環境を作ることができるのであれば、もちろんこのメソッドでなく、製麴室を手作りするのでもよい。

保温と手入れ(製麴)


fermentation
about 48 hours

これから約48時間、保温し、出麹まで4回手入れを行う。 手入れを行う時には、品温が下がってしまうので、手早く行う。 写真のように塊になっている米粒があれば、毎回、米の一粒一粒がほぐれるように、しゃもじで米の塊を崩していく。水っぽい米や、塊の内部には、麹菌が発芽しないので、この作業は丁寧に行う。 麹菌の胞子が発芽するには、品温30~35度、湿度95%以上の環境が適している。 もし、蒸し布が湿っておらず完全に乾燥しているようであれば、わずかに布を湿らせて、ビニール袋の中の湿度が高くなるように調節する。 以前、ビニール袋の代わりにキッチンペーパーでタッパーを包んでみたところ、タッパー内の蒸し布が乾きすぎてしまい、上手く湿度を保てなかった。そのため、手入れ時に、蒸し布を見ながら、乾燥が進みすぎていないかを毎度チェックする。

after 10-12 hours

10時間から12時間後に一度目の手入れを行う。 この時、タッパーから出す前に、品温をチェックして、温度が30度以下だったら、品温33度を目指して、電気毛布の温度を少し高めに設定する。 品温が40度に近くなると、麹菌が納豆菌にやられてしまう危険性があるので、あまり品温が高くなりすぎないようにする。 素早く手入れを行い、米を切り返したら、また蒸し布に包んでタッパーに戻す。

after 22-24 hours

22時間から24時間後に2度目の手入れを行う。 この時点で、蒸し米の表面に白く粉がふいたような箇所が見える。麹菌の胞子が発芽し始めたことがわかる。 発芽が盛んになると温度が上がりやすい傾向になるので、品温をチェックして、必要があれば電気毛布の温度を下げるなどする。 蒸し米を切り返すことで温度を下げる役割もある。

after 32-36 hours

32時間から36時間後に3度目の手入れを行う。 最初に比べて、蒸し米が随分白っぽくなり、さらに粉をまぶしたような状態になる。 米全体が麹菌の胞子で覆われ出す。 この時も、米の塊があれば、しゃもじでばらばらになるように切り返す。

after 40-42 hours

40時間から42時間後に4度目の手入れを行う。 4度目の手入れの時には、麹菌の胞子が肉眼でもはっきりと見えるようになる。白くて、胞子のふわふわとした毛足が蒸し米全体を覆い、米麹特有の甘みのある香りを放ち出す。 発酵が進むと、さらに温度が上がってしまう傾向があるので、品温を計り、電気毛布の温度を調節する。

仕上がりに近づくと、蒸し米が大きなブロック状の塊になってくるので、切り崩す。 手入れ後は、麹菌のふわふわした毛足が見えなくなってしまうこともあるが、変わらずに発酵は進んでいく。 ビニール袋の中に、水蒸気がたまり、水滴がつくが、湿度を保つため、水滴はそのままにしておく。蒸し布で包み、48時間経つまで保温する。

出麹(乾燥)


drying:
24 hours

48時間経過したら、出麹となる。 食べてみて、米麹特有の香りがして、米麹の甘みがあれば完成。透明感のあった蒸し米の表面が完全に、白く粉っぽくなり、米粒全体が麹菌で覆われていればよし。 もし、粉っぽさがまだらになっていたら、破精込みが十分でないということ。完成度が低い場合には、33度の室温をキープして、さらに数時間保温させて、様子を見る。このような場合、保温途中の温度・湿度管理が十分でなかった可能性がある。

出来上がりの場合は、布ごと米麹を取り出し、広げて室温が10度ぐらいの場所で24時間ほど乾燥させる。 塊になっている箇所があれば、しゃもじで米粒をばらばらにする。 写真は、オーブン網の上に、湿気取りのためのキッチンペーパーを敷き、その上に米麹を広げた状態。低温の室内で数時間、乾燥させる。夏の高温の室内だと、発酵がさらに進み、米麹が傷んでしまうので、室温を調節し、扇風機などを使って数時間で手早く乾燥させる。


出来上がり!



expiration date:
within 7 days

乾燥後、米麹はフリーザーバッグなどで密閉して、冷蔵庫で5〜7日程度日持ちする。 だが、時間の経過とともに、麹菌の酵素力が落ちてくるため、一日でも早く消費してしまうのがよい。 味噌作りに使う予定であれば、この時点で塩切りしておく。 酒を仕込む場合には、日の浅いうちに始めるのがよい。